長岳寺に伝わる地獄図です。法量の大きさ、図柄の精緻さ、各場面の描写の素晴らしさ、内容の豊かさは他に例を見ません。9幅の軸から構成されていますが、全体が1枚の絵となっています。 内容は図の上部全体に十王裁判図(合わせて十三仏)、図の中程から下部にかけて、冥界の入り口である墓地、罪問間樹、死天山、三途の川、奪衣婆、賽の河原、八大地獄、餓鬼道、畜生道、修羅道など、すざましい情景が描かれ見る者の心胆を凍らせます。 第9軸は様相が一変して、極楽より阿弥陀如来が聖衆を引き連れて極楽往生する人を迎えにくる、いわゆる聖衆来迎図となっています。
元々、この絵を使って絵解きがされたものと思われます。祭礼、法要のあとに多くの参詣人を対象に解かれ、その目的は方便として因果応報を解くことによって勧善懲悪の教えを説き、またあわせて先祖供養、中陰、逮夜、年忌の意義を説いたと考えられます。
しかし今、私達がこの図をみて感じることや図本来の意味は、来世のことや、また運命決定論的な前世の因縁を説くことにあるのではなく、この図はまさしく現世(人間界)を告発している図であるということでしょう。
この図に示される、すざましい三悪道(地獄、餓鬼、畜生)や修羅道の世界は形を変えてすべて我々の世界に存在するのです。 戦争というすざましい殺戮と大灼熱の地獄、飽くなき欲望に囚われて人を傷つけ、また自らも傷つき大いなる生命の源である自然破壊をも行う餓鬼道、相手の思いを理解できず猜疑心にとらわれた畜生道、激烈な競争社会で相手を殲滅するまで合い争う修羅道。 そして一念十界の教えの如く、私達の心の中に仏心もありますが、恐ろしい地獄の鬼の心や、醜く浅ましい餓鬼や畜生の心、心怒らせる修羅の心などが内在していることを示しているのです。
長岳寺では、毎年、10月23日から11月30日まで本堂にてこの図が掛けられ、住職の現代風絵解き「閻魔の嘆き」「六道思想を現代に問う」が行われます。その頃は長岳寺境内1万2千坪に亙って、紅葉の錦が美しく彩ります。
なお、「10月23日~11月末まで毎週土曜日・日曜日13時~」住職による地獄絵の絵解き説法が行われます。団体での拝観の場合、平日でも他の時間でも受け付けます。また、団体拝観の方々と一緒に個人拝観の方もお聞きできます。詳しくはお電話ください。TEL:0743-66-1051
大地獄絵 要所解説
閻魔王は亡者死後五週間目(五・七日忌)に裁判を行う裁判官です。ここでの取り調べが最も厳しく、もし嘘をついても浄玻璃(じょうはり)の鏡に罪が映しだされます。元々,閻魔はインドの死の神ヤーマであり中国に渡り閻魔王となりました。本地は地蔵菩薩です。
地獄の猛火で罪人が焼かれている場面です。不飲酒の戒を守る人に騙して酒を飲ませた者がこの地獄へ落ちると言います。
獄卒に追われた罪人がこの木の下に至ると、樹上に絶世の美女がおり、罪人に向かって「汝、如何で此処に至りて吾を抱かん」と罪人を誘惑します。喜んだ罪人は争って木を上っていきます。 しかし、木の葉は鋭い刃物となっており罪人の身体を切ります。罪人の自分の欲望によって自らの身や心を傷つける地獄です。
六道の内の修羅道です。争い事の好きな者や、自ら争いを起こして命を落とした者がここに落ちると言います。ここでは阿修羅の手下となって日々争いに明け暮れ、その争いには必ず負け、戦いによって身体を切り裂かれるといいます。図中、赤い球(太陽)と白い球(月)を捧げているのが阿修羅です。
地獄絵説法の様子 天理市公式YouTubeページから引用
「10月23日~11月末まで毎週土曜日・日曜日13時~」住職による地獄絵の絵解き説法が行われます。団体での拝観の場合、平日でも他の時間でも受け付けます。また、団体拝観の方々と一緒に個人拝観の方もお聞きできます。詳しくはお電話ください。TEL:0743-66-1051
絵解きをする住職
(平成11年5月28日、国立能楽堂で行われた特別公演にて)